HUMANITY

髪の可能性 ―ヘアドネーションの現場で―
〈INTERVIEW〉Japan Hair Donation & Charity 代表理事 渡辺貴一さん(前編)

ヘアドネーション

ヘアドネーションとは読んで字のごとく、切った髪を寄付する活動のこと。「チャリティと言っても、切って捨てるくらいなら寄付しようかな、くらいの気軽さでいいと思うんです。別に特別なことじゃないし、僕たちだって何か良いことをしているという意識があるわけではないですから」

そうあっさりと話すのは、日本最大規模のヘアドネーション団体「ジャーダック(Japan Hair Donation & Charity)」の代表、渡辺貴一さん。10年前には日本でその名前さえ知られていなかったヘアドネーション活動を0からスタートさせ、現在の認知度と活動規模にまで導いてきた張本人にお話を伺いました。

 

〈渡辺貴一〉
美容師、ジャーダック(Japan Hair Donation & Charity)代表理事。2008年、自らのヘアサロンの独立と同時にヘアドネーションの活動開始を表意。その後2009年、日本初のヘアドネーション団体であるNPO法人ジャーダックを設立。全国から集めた髪を使った医療用フルオーダーウィッグ「Onewig」を、18歳以下の子どもたちへ無償で提供している。
www.jhdac.org/index.html

 

長い髪は貴重。短い髪も「素材」になる。

ー本日はお時間をいただき、ありがとうございます。ここ数年の間、私自身の周りでもヘアドネーションをしたという人の話をよく聞いていたので、今日はその髪がどんな工程を経て活用されているのか、また今の活動の課題や職員の皆さんの想いを直にお聞きできればと思って伺いました。

渡辺さん「ようこそはるばる(大阪まで)いらっしゃいました。私たちの活動は2009年からはじまり、最初は数ヶ月に1通髪が届くくらいの認知度でした。ところが次第にブログやSNSでこの活動が広く知られるようになり、届く髪も月に数通、週に数通とだんだん増えて……。今では1日で150通〜200通くらい届くようになり、事務局は見ての通り髪でいっぱいです」

(左)週明けの取材当日、郵便局から大きな布袋5つ分もの髪が届いた。
(右)事務局のスタッフは、手際よく届いた髪を長さ別に選別していく。

(左)週明けの取材当日、郵便局から大きな布袋5つ分もの髪が届いた。
(右)スタッフは手際よく、届いた髪を長さ別に選別していく。

 

ーでは今は、髪は十分に集まっている状態なんですか?

「集まる髪の総量は多いのですが、長い髪、特に女の子に人気のロングヘアのウィッグを作るためには、50センチを超える長さの髪を必要とします。ただしその長さのものは、寄付全体の1%程度なので、慢性的に足りていない状態が続いています。
ジャーダックに集まる髪で製作している医療用ウィッグ〈Onewig〉は、抜け毛を最小限にするため、髪を元の長さの半分で折り返しつつ、ウィッグの地肌部分に1本1本手作業で植え込みます。ですからウィッグに仕上がると、長さがもとの髪の半分ほどになってしまうんですね。
そういうわけで送ってもらう髪は1センチでも長い方が有難いのですが、それは髪を提供してくださる方の自由なので、できれば押し付けたくないんです。それに短いからと言って、その髪が無駄になっているわけではありませんから」

(左)ウィッグの地肌部分で髪を折り返し、1本1本丁寧に編み込まれているOnewig。
(右)古い「かもじ」(女性用つけ髪)は、伝統工芸品の材料に。人毛は、漆を塗るための専門の刷毛にも適しているという。

(左)ウィッグの地肌部分で髪を折り返し、1本1本丁寧に編み込まれているOnewig。
(右)古い「かもじ」(女性用つけ髪)は、伝統工芸品の材料に。人毛は、漆を塗るための専門の刷毛にも適しているという。

 

ー31センチ*未満の短い髪でも、役に立てられるんですか?
*31センチ=Onewigに活用できる髪の最低限の長さ。

「寄付していただいた髪の毛は1本も無駄にはしたくないので、短い毛でも再利用できる道を模索してきました。短い髪は美容師さんの練習用カットマネキン*になったり、ヘアケア用品の研究に欠かせない評価毛になったり、ケラチンフィルムの研究をしている大学の研究機関に送ったり。また、何十年も前の『かもじ』(日本髪用のつけ髪)を送っていただいたときは、伝統工芸でもある漆刷毛の材料にしてもらいました。
短い髪はジャーダックが求める品質の医療用ウィッグにはできないけれど、送ってくださる皆さんの髪という素材と、それぞれの善意は、かたちを変えて役立っているんです」

*美容師の練習用ウィッグは、根元で折り返す編み込み式ではなく、1本1本をまっすぐ樹脂製の頭部に植え込む作り方のため、髪の長さがジャーダックが作る医療用ウィッグほど必要ない。

 

〈ヘアドネーションの方法〉

寄付できる髪
 

1.寄付できる髪

  • ・年齢や髪質、パーマやカラーリング、グレイヘア(白髪)やくせの有無は関係なく、ゴムで縛れる長さであればどなたでも寄付できます。もちろん男性でもOKです。
  • ・ジャーダックでは31センチ以上の髪を医療用ウィッグに使用しています。31センチ未満の髪は、ヘアサロン用のウィッグや、研究用の評価毛、その他の用途に使用されます。

2.寄付する際の注意点

寄付する際の注意点
  • ・寄付する髪は、こちらのインストラクションに沿って、必ず縛った状態で切ってから送ってください。
  • ・寄付する髪は濡らさずにカットして、完全に乾いた状態のまま送ってください。
  • ・事務局には多くの髪が届くため、過剰包装はご遠慮ください。縛った髪と「ドナーシート」をセットにして、袋に入れて送る方法がおすすめです。(複数人の髪を送る場合は、髪とドナーシートが一致するように小袋に分けてから送ってください。)
  • ・縛った髪をラップで包んだり、ゴムの跡がつかないようにゴムと髪の間に紙を挟んだりすると、仕分けに時間を要するためご遠慮ください。
  • ・送った髪が到着したか確認がご必要な場合は、追跡確認のできる郵送方法で送ってください。多くの髪が届き次第仕分けに入るため、事務局での確認はできかねます。

ヘアドネーションの方法やサポート方法は、ジャーダックの公式サイトをご覧ください。

次回の後編では、渡辺さんたちがヘアドネーションを通じて考えていること、現在と未来のヘアドネーション現場について、率直なご意見を伺います。こちらも併せて、ぜひご覧ください!