A Sense of Scent

香りの視点 「まとう」

9月6日 トワル.rui にて高木 瑠衣 (Rui TAKAGI)さんが 私に答えてくれた言葉
―「まとう」は想像すること ―—- それが何であるか、わかることは決してなく
透明で真っすぐで誠実なものに焦がれる ———-相手がいて、相手のことを想う。思いをはせる…
時間をかけ丁寧に綴られた手紙のような創作それらは、白い布たちが重なるアトリエで一人の女性の為に…

私は昨年、瑠衣さんと出会いました。
それ以来、彼女の心の奥から溢れる美しさに惹かれています。

写真 「ドレス」

一井りょう

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一井りょう「まとう」
4×5 フィルム :アナログ(手現像・手焼き)

華雪「纏」まとうと聞くと、着物が思い浮かぶ。
時々着物を着る。着物は四十年前に、母が誂えた。
かつて着物に携わる仕事をしていた母が自分で反物を選び、仕立ててもらったという。
けれどなかなか着る機会がないからと、十年ほど前に譲り受けた。自分の身より長さのある着物を畳んだまま襟元に手をかけ、
広げながらひといきに肩に羽織る。袖に腕を通す。しゃっと衣擦れの音がする。
四十年間、着物とともに箪笥に仕舞われてきた防虫香─思わず居住まいを正しくしよう
という気分になる古めかしい香りが漂う。着物に興味を持ったのは、子どもの頃、当時流行ったバービー人形の着せ替え用にと
母が着物をつくってくれたことがきっかけだった。
木綿地の絣模様の小さいながら本物とほとんど変わらず仕立てられた着物を、母に教わりながら、
グラマーで腰高なプラスチックの人形の身体に紐を使って着せていく。
どうにかひとりでうまく纏められるとうれしかった。そうやって遊ぶうち、着物の着方、
畳み方はいつの間にか覚えた。「纏」の字の成り立ちは、なにかをふくろの中に縄でまとめることをいうと字典にある。

たもとをたくし上げ、裾の高さを決めると、腰紐を回す。
身体のかたちに合わせて余った布地を寄せて畳み、紐で留める。四十年分の香りもいっしょに折り畳まれる。

繰り返し着るうちに知ったのは、紐はきつく縛るほど着崩れないわけではない
ということだった。
布が身体に留まる位置を見つけて、そこに結び目が乗るように結ぶと、合わせが緩む
ことは不思議とない。着物を纏うことは、自分の身体のかたちをよく知ることでもあった。
同時に、母の身体のかたちを感じることだった。

母から譲られた着物を自分の身体に合わせ、紐で纏め、そこに染込んだ香りを嗅ぐ。
そうやって纏うのは、母の時間、母の身体なのかもしれない。

香りの視点 No.004「まとう」
終わり

 

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華雪「纏」
和紙,墨 285mmx365mm
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一井りょう「まとう」
4×5 フィルム :アナログ(手現像・手焼き)